■2009年2月の「絵てがみコラム」
 

部屋中お供えの花が溢れているけど、ひとつの花瓶だけ枯れ枝が一本ささっている。桜の枝だ。先日家の前の桜並木の剪定作業が行われていた。朝からウィンウィン電気のこぎりの音が鳴り響き、枯れて落下する可能性の高い枝が切り落とされているのだ。道路に面した桜の宿命だが落ちて事故を起こす前に、花の季節の前にかわいそうだけどカットされてしまうのだ。道路に落ちた枝を急いでもらいに行った。「いいけど、無理だよ。枯れてるよ。」そういわれたけど一枝ゲット。あきらめずに花瓶に挿しておいたのだ。
それでもなんだか枯れ枝は侘しく思えて、今日桃の枝を一本買ってきた。お供えの花は何となく白い花が多く白とグリーンでとても好みの雰囲気ではあるんだけど、ひな祭り週間でもあることだし、やっぱり桃色を加えて枯れ木に花を咲かせましょう〜とばかりに枯れ枝をフォローしようと考えたのだ。
水を取り替えていっしょに挿してみたら…え?! 芽が出てる! 見放された桜の枯れ枝からほ〜んの少し硬い茶色の芽の先に白いものが出ているのだ。「やっぱり生きてたじゃない!」そんなひとりごと…。そんなことさえ、涙が溢れる。

 

 
 
 

先週の絵てがみコラムを見てたくさんのお悔やみのメールやお供え、綺麗な供花を頂きました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
突然の内容で驚かせてしまったようで、最近恵津さん元気ないな〜、肩こりひどいなんて更年期かしら?と心配していてくださった方もあまりの衝撃的な内容に電話口で私以上に涙ぐんでくださったり、絵てがみコラムを休まないなんて偉い!と妙な?激励を頂いたり本当に人と人とのつながりや思いやりに深く感激いたしました。本当にありがとうございました。
もちろん、ふとした事で涙ぽろぽろ…ではありますが、なんとなく幸せな最期をちゃんと一緒に過ごすことが出来た!という安堵感や充実感のような不思議な感覚に毎日包まれていて割りと元気にしています。仕事にもすぐに復帰して、一人の生活が始まっています。
時々、あ。病院…行かなくっていいんだ…と乗り換えの銀座駅を通ると胸がきゅ〜んとしたり、空が綺麗な夕方になると病室の窓から見ていたレインボーブリッジや浜離宮の眺めを思い出し何枚も描いた景色とビル群の工事が進んで東京タワーがどんどん見えなくなった事などを思い出します。ベッドから降りられなくなった彼にはビルのてっぺんと広い空しか見えなくなって景色に興味を示さなくなっていたけど。最期の日にはしっかり東京タワーの先っちょが夕日に光っていたのを一緒に眺めたな〜とか。そんなことをあれこれ思い出しちゃいます。しかたないね。時々思い出話にお付き合いください。毎日涙ぽろぽろしながら頑張ります!

 

 
 
 

春一番が窓をガタガタ揺らす、部屋はむせ返るようなゆりの香り。ピンクのオリエンタルリリーと白いカラーの、私が思い描いたとおりの花篭が二つ。その真中に白い布をかぶった箱。これは何?これは誰?冗談だよと言って欲しい。朝、目が覚めたら全部消えていて欲しい。
2月8日日曜日の夜、最愛の夫は永眠した。危篤状態は一分もなく、私を見つめたまま何か優しく語るように息を引き取った。昨年の夏、末期の膵臓がんだとわかった日から辛い病との戦いはこの瞬間で終わった、終わってしまった。
この絵てがみコラムでは直接触れることはなかったけれど、心の異変を察して手紙を頂いたりメールで励まされたり、時には押しつぶされそうな悲しみを私自身、絵を描いたり少し文章を書くことで気分を変えることも出来た。仕事にも支えられて、互いに隠し切れない嘘などつかず真正面から病気と向き合って来た気がする。そしてなるべく穏やかな気持ちで過ごせる努力を、その努力だけを心がけてきた。通院はデートの気分で都会の中でも季節の移り変わりをしっかり目に焼き付けて、眺めのいい病室から何枚も風景をスケッチした。彼はその様子を静かに嬉しそうに見ていた。
痛みや死に対する恐怖についても仕事や人に対して誠実さがいかに大事かということも、神経質すぎるくらい火の用心についても、おそらく不慣れなろうそくやお線香の火の後始末を心配しての事だろう、毎日いっぱい話をした。そしてどんな風に別れが来てもきっと悲惨なはずがない、そんなに不幸ではないはずだよと。話していたとおり…私がこだわってデザインした花祭壇の真中でニコニコ手を振ってくれているような気がした。
通夜・告別式を無事終えて、夕べの春一番が通り過ぎて、東京はすっかりぽかぽか、春の陽気。病院通いで着ていた厚手のコートを脱いで「さあ、えっちゃんもう泣かないで!」そんな声が聞こえてきそう。それは当分無理だけど。ちょっと無理だけど。春一番が吹いたのだから…。

 

 
 
 

京都からお漬物が届いた。出張で訪れた友人が送ってくれたのだ。
一緒に旅行した時に二条の「加藤順漬物店のしば漬けが大好きなの」という私の言葉を覚えててくれたのだ。京都通の彼女もすっかりここのお漬物のファンになったと話していたっけ。
浅漬けのきゅうりとナスを細かく切らずにわたしはそのままポリポリ!冷蔵庫を開けるたびにチョッとつまみ食いしたくなってしまうのだ。「極み漬け大根」というたくあんもおいしいね。大根縦に半分、蛇腹のように切れ目が入ってそのまんま袋詰めされてて食べたい分だけちぎって食卓へ。ピリッと七味がきいててご飯が進む!温かいご飯を炊いて良かった〜と思うよね。チンしたご飯じゃだめですね〜。
メインディシュがお漬物そんな日があってもいい。ご飯を炊くのも面倒くさい、そんな日もあるけれど、いやいや今日はお漬物のためにご飯を炊くぞ〜!
そんな気持ちにさせてくれた友情にも感謝しながらポリポリ!

 

 
 
 

 <<<1月

3月>>> 
 
▲TOP
■COLUMN
●HOME