■2008年11月の「絵てがみコラム」
 

「あ。運転手さん、あの黄色い道、あの銀杏並木の下通りましょうよ」
思わず通り慣れた皇居の前の道なのに、視線をくぎ付けにした黄色い100メートルくらいの通りを曲がってもらう。朝の陽射しにキラキラとまばゆいばかりの黄色い道。この日この時じゃないと見れないような幸せな瞬間にめぐりあえた。平凡な毎日でも同じ瞬間は二度とないんだな〜と思える。
だれにでもずっと前から待っていた瞬間と言うものもあるだろう。
たとえば来年の春この日に結婚式を挙げる。2月何日は入学試験。海外旅行のツアーの出発は何月何日。楽しみにしていたコンサートは今日。
そんなずっと前から、3ヶ月も半年も先の待っていたこの時が。
はるか先のことと思っていたことが着実に時間を刻みこの時がやって来る。
愛しいほどの気持ちで無事迎えられた喜びの小さなガッツポーズ!
偶然のこの瞬間と待っていたこの時とその価値を比べることなんか出来ないけど、どちらも生きてたらシアワセ!って感じだね。大事にしたいそう思える心を。

 

 
 
 

こう言うことをカラーセラピーと言うのかな?と実感できることがあった。
昔から仕事柄、色に関しては人一倍関心があり色彩研究の一人者である末永蒼生氏主宰の色彩学校で学び、私自身一日講師の経験もあるくらい色の意味やパワーに詳しいつもりでいたが、しみじみ「あ〜今、私にはこの色が必要なんだ…」と思えるような機会はそうそう体験出来るものではない。
正直、最近気持ちが滅入りどんよりしちゃってるな〜と感じていたのです。買い物に出かけても、ウインドーや鏡に映る姿がきっと全身から冴えないオーラが出ちゃってるな〜と…スタイルとかファッションのセンスとか以前の問題で。そんな事ってありませんか?
勿論どっぷり時にはそんな「内」に入り込むような時期も必要なのかもしれませんが…先日、本屋さんに入った折り、吸い寄せられるように鮮やかなマゼンダピンクの文字や花や鳥の表紙の雑誌を手に取った。「わ〜きれい!こんな色、私に補充しなきゃ…」まるで何かに取り付かれたように中身も見ずにレジへ持って行った。近くのカフェでしばし表紙を眺めしばらくたってそれがメキシコ特集の旅雑誌で中米の民族衣装の 刺繍のブラウスの写真であったことに気がついた。
日曜日特別好きな画家という訳でもないのに無性にピカソの絵を見たくなって混んでいる事覚悟で国立新美術館で開催中のピカソ展に足を運んだ。自分の気持ちに沢山の色のシャワーを浴びたかったような気がする。
その翌日変な木のオーナメントを衝動買いした。動物なんだか人形なんだか判らないチープな手書きのマトリョシカのような…。沢山の中から無意識にひときわカラフルなのを探している自分にふと気が付いた。

 

 
 
 

金曜日の夕方になっても今週の絵てがみ、何を描けばよいのか決まらないことは珍しくないのだが、晩御飯の仕度をしながら一週間を振り返ってみた。
月曜日左手の痺れが気になって近所のクリニックに行ったら、肩こりだろうとビタミン剤を処方される。確かに効いているようだ。火曜日打ち合わせで日本橋へ。帰り三越本店の大きなクリスマスツリーに見惚れる。飾りのオーナメントがサッカーボールくらいのサイズ。ゴージャス!たいめいけんでオムライスを食べて帰る。週の中ごろ冷たい雨の中、友人のガラス工房へ。チョッと新しい挑戦!実験中!そのうち報告できるかも…。やっと東京に青空が戻り沢山の洗濯物を片付ける。静かな一週間だった。だからなかなか絵てがみのモチーフにはなりにくいのよね。案外この晩のおかず描いてみるのも良いかも。
というわけで、今晩のおかずを描いてみました。器はちょっと実際のものより高級な雰囲気のものにしてあります。あ。ブロッコリーはもっと色がくすんでクタっとなっちゃいました。あ。柿はもっと沢山、食べ過ぎました。

 

 
 
 

長い選挙運動の末、次期アメリカ大統領はオバマ氏に決まった。日本のテレビでも選挙速報をアメリカから中継し、熱狂の勝利宣言を熱く報じた。なんだかその熱さが羨ましく感じられたのは私だけではないだろう。
アメリカといえば私にとっては伯母の住むコロラド州デンバーの近くコロラドスプリングスと言う町だ。自然溢れる静かな保養地で冬はスキー夏は避暑、標高2000メートルの町周辺では高地合宿に訪れるアスリートも多い。私は2度訪れた事があるが空気の薄さには少々苦戦した。80歳を過ぎた伯母は一人でこの地で暮らしている。
遠い昔、終戦直後の話だ。伯母は百貨店のエレベーターガールをやっていた。それはとてもハイカラな仕事で米軍兵士に見初められ熱烈な恋をして海を渡った。残念ながら数年で別れてしまったが伯母は帰国せず異国の地で一人頑張った。田舎の町で人種差別もあったけど「日本人は清潔で働き者だ」と町で一番大きい花屋さんのオーナーに気に入られ経営を任されるまでになり、今でもその家族とは家族ぐるみの長い長い付き合いになっている。私が子供の頃はクリスマス近くになると香水の匂いにむせそうなダンボールの中に缶入りのココアや重たいパウンドケーキ、派手なクリスマス柄のセーターなどが届いた。私にとってのアメリカはそのダンボール箱の匂いだ。伯母は仕事をリタイアしてからは数年に一度、宝塚歌劇を見ることを楽しみに帰国しているが高齢の為足腰も弱って次のチケットの予約は入っていない。
そんな伯母を訪ねて年に1・2度妹が渡米する。伯母の家を拠点に語学留学していた事もあり一人暮らしの伯母をずっと気にかけて様子を見に行くのだ。丁度今、妹がコロラドスプリングスを訪れて伯母と一緒に山盛りのポテトの乗ったハンバーガーなどを食べている頃だろう。
絵は町の西10キロ赤い砂岩が不思議なバランスで天に向って伸びている印象的な景色「ガーデン・オブ・ザ・ゴッド」まさに神々の庭。家の近所にこんな庭、いかが?アメリカ、大きな国。

 

 
 
 

急激に秋が深まっていますね。こんな時期に上野不忍池近辺を歩く機会が今までなかったけど、先日まだ青々と残った葉と茶色く立ち枯れて、それでも存在感一杯に残った蓮の花托の部分を同時に見る機会があった。花托とは花びらが散って種子が納まった真中のまるで如雨露の口のような部分だ。葉もまもなく茶色く朽ちてしまうけど秋の陽射しがまだ残っている今だけ、緑と茶色のコントラストを同時に楽しむことができる。蓮好きとしては花の時期ばかりではなく、このような情景を見逃してはいけないのだ。やっぱりその魅力を感じてか池の周りで絵を描いている人が何人も。
私は残念ながら画材を持ち合わせていなかったので携帯で写真を撮って帰宅してから描いて今週の絵てがみにする事にした。弁財天の屋根が蓮の葉と同じ色で小さな携帯の画面では識別できないくらいだったけど印象を思い出して描いた。風が冷たくなったこんな季節の蓮も良いですね。夏の蓮とは違う風情が伝わるといいのですが。
あ〜もう11月!今年も残り2ヶ月となりました。駆け足で過ぎていく毎日、ちょっとでも良い時間でありますように。

 

 

 

 

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