■2024年11月の「絵てがみコラム」
 

グルメタウンのサンセバスチャンに3泊するという贅沢さ! ここはぜひ出かけてみようとお酒大好きな二人が企画して現地のツアーに申し込んだ。タクシーで15分ほど海から離れて小高い丘が連なるエリアにリンゴのお酒、シードラ(シードル)の醸造所がある。リンゴ園と工場の見学とそして試飲と。友人二人は試飲を楽しみに私は出来立てのリンゴジュースとランチを楽しみに。
工場の裏手には不揃いにもほどがあるのでは?と思うほどいろんな種類や大小さまざまな収穫後のリンゴが無造作に積まれていた。リンゴの丘はほぼ収穫を終えたようでリンゴもぎなどはなく、落ちたリンゴの収穫方法(鎌をひっかける方法+籠の取っ手にぶつけるようにして要領よく収穫する)その実演を私が見学者代表で実演したり、空振りして笑いを誘ったりした。
大きな樽で圧縮され熟成されたリンゴ、お酒になる前のジュースは甘さよりも酸っぱさがナチュラルで不揃いな熟してなさそうなリンゴの力であっさり飲みやすい。そしていよいよ熟成が進んだ飲み頃のシードラの樽の前に、見学者10人ほどが順にグラスを持って並んで樽の栓を開ける! ぴゅ〜〜〜っと勢いよくシードラが飛んでくる! それを順々にグラスで受けるのだ! キャーキャー言いながら、こぼさないように、服を汚さないように・・・つまりランチのお供のシードラは飲み放題でグラスが空いたらまた、ぴゅ〜〜っと係りのおね〜さんにリクエスト。楽しく忙しいランチになりました。(私はリンゴジュースを大びん1瓶あけました。)
この日のランチのTボーンステーキもワイルドなTHE肉!という感じで、魚介類が続いていた私たちを満足させた。そんなリンゴのお酒を造る醸造所・蔵元を「シドレリア」といいます。

 

 
 
 

もちろん星付きレストランにも興味津々だったが、そんな高級レストランに行かなくても立ち喰いのBAR(バール)のピンチョスで十分美味しい!という情報わんさか! 私たちは思えば何年も前から情報誌、TVの旅番組、グルメバラエティー、ファッション雑誌のおしゃれな旅グラビア…「バスク」と「サンセバスチャン」という文字に敏感にずっとチェックし続けてきた。だからその長年思い続けてきた場所に立てたとき「来たね〜〜とうとう来たね〜〜」と感慨深かった。(BILBAOから高速バスで1時間20分くらい二番目のバスクの街サンセバスチャンに到着!)
さて、そんなグルメな町に来たかった要因は友達二人はお酒好き、私は甘党。BAR巡りから這ってでも帰れるようにBAR街に便利なホテルにチェックインした。ここは女学生気分で?飲食代優先でカジュアルなペンション。ホテルの入り口も自分たちのカギで開けて入いる、フロントも夜は不在、朝食無し、朝近くのパン屋さんに焼き立てのパンを買いに行く。
私たち流、グルメ旅! まずは甘党私のスイーツ報告。バスクといえば「バスクチーズケーキ」略して「バスチー」そのバスクである…がスペインのほかの街では通じないらしい。そのBAR街にある「La Vina」発祥の店、大混雑だが次から次に焼きあがってくる。表面は大きく焦げていて、お店のおじさんの目分量でザクザク切っていく…ザクザクは違うな〜ぶよんぶよん〜っと切っていく…そんな感じ。二切れで1人前。中は思い切り半熟、ぶよ〜んどろ〜〜んである。味はもちろんおいしく、生暖かい。ケーキというよりチーズである。だからBARでみんなワインを飲みながらバクバク食べられるのだ。本場の本拠地の「バスチー」しっかりいただきました!(1人前以上)
絵は右のバスクの旗が立っているのはBILBAO名物の「カロリーナ」という甘酸っぱいメレンゲクリームのかわいいお菓子。サンタさんみたいなおじさんが嬉しそうにつぶさないように、恐る恐る持ち運ぶ姿が可愛すぎて「私もあれ食べる〜!」。右下の「メンブリージョ」とはチーズのお供で西洋かりんのジャムみたいなもの。最初はわからず、私たちは「イチジク羊羹」と呼んでいた。チーズと一緒に食べるようだ。知らないスイーツがまだまだあるもんだ!

 

 
 
 

バスクについて詳しい人は少ないだろう。私の1週間ほど旅行したくらいでの知識では全然語れないのですが、ざっくりと場所や個性について話しておきたいと思う。
北スペインの左端にサンティアゴデコンポステーラがあるとして、バスク地方といわれるエリアは右端のフランスとの国境のエリアでスペインバスクとフランスバスクその一帯を「バスク地方」と理解しているのだけれど、正式にはフランス語で「ペイ・バスク」スペイン語で「パイス・バスコ」ともに「バスク国」という意味でそれぞれにあえてバスクを国付けで読んでいるのです。難解なバスク語もあり、国旗のような「イクリニャ」がバスク州の印象的な旗であちこちで見かけます。バスク地方の人口は約270万人(スペイン側230万人)その約6割が珍しいRHマイナスの血液だとか…文化的にも独特なものがあり謎めいている。
ちょっと旅行したくらいでは特別な個性を感じることはできないが、ピレネー山脈を背に海に面して、川も多く海に流れ込み食材の豊かさは想像に値する。世界一グルメな町「サンセバスチャン」はそんな特別感が食通の間で話題になり、人口比で星付きレストランが一番多い街…という事で有名になったのだ。

 

 
 
 

ビルバオには調べれば調べるほどユニークな建物が。ホテルの近くにワイン貯蔵庫を独創的に改装した文化複合施設「アスクナ・セントロア」があることを知ったとき、朝ここを見て…ガラス張りの氷山のような保健衛生局を見て…グッゲンハイム美術館まで歩いていけるかも…。ルートのイメージが出来上がっていた。
特にフィリップ・スタルクのデザインの(フィリップ・スタルクは日本では浅草、吾妻橋のたもとのアサヒビールのあの金色の〇〇〇のようなビルが有名)アスクナ・セントロアは建物の中に建物がありそれを支える「柱」が個性的でユニークなのだ。ふつうこんなことは考えないだろう…全部違う…いろいろデザイン案が出てもその中から一つ決めて、全部そのデザインにするもんでしょう?普通。1本ずつ変えないよね?普通。しかも全部アクが強い!「わ〜なにこれ!?」予備知識のない友人たちは呆気にとられていた。そして自分好みの「柱」を探し始めてその柱と一緒に写真を撮る。自分の個性と響きあえる相棒を探すように。フィリップ・スタルクはそこまで考えたのかな? BILBAOらしいひと時を楽しんだような気がする。
BILBAOでは少しデザインな時間を過ごしたいな〜という私のリクエストに賛成してくれた旅友に感謝!

 

 
 
 

旅の少し前に私たちは渋谷で食事をして、別れ際に「次はビルバオで会いましょう!」「そうね! ビルバオのバスターミナルで! 元気に会いましょう!」そう言って私は2日早く旅立った。サンティアゴデコンポステーラ空港から1時間、飛行機も定刻通り到着して空港から市内に向かうバスにも順調に乗った。何度もネットで調べて頭の中でシュミレーションしたコースだ。友達二人は私より4時間ほど早くビルバオに到着しているはず、一足早くホテルにチェックインして私をバスターミナルまで迎えに来てくれる段取り。すべてスムーズに事は運び約束のバスターミナルで私たちは合流した。
ここからがコロナ前から「次はバスク!」と言っていたスペイン・バスク地方の旅が始まった。ビルバオはスペイン北部の港湾都市、そんなに有名ではないけどグッゲンハイム美術館が1997年にできてから面白い建築物の多いアートな街として私の行きたい街ランキング(そんなのあったの?)に入っていたのです。
グッゲンハイム美術館はニューヨークに本部がありここは分館、前衛的な大きな船のような、巨大オブジェのような…そう昨日までのサンティアゴデコンポステーラから一気に500年くらいワープしたかのような凄い建物なのです! 外をグル〜っと一周して友達があきれるほど写真を撮りまくって…そのころにはここでも朝降っていた霧雨がやんで美しい青空になっていた! 建物の表面のチタンやガラスに青空が反射して、私が見たかった姿がそこにあった。フランク・O・ゲーリー設計のグッゲンハイム・ビルバオ美術館を堪能した。入り口には大きな仔犬?パピー君が季節折々の草花が埋め込まれた一期一会の姿で私たちを迎えてくれた。来たね〜ビルバオ〜! 会えたね〜パピー君〜!(なぜか勝手にオス犬と決めている)

 

 
 
 

ちょっとしたパーティー…なんて、なかなか遭遇することはない。冠婚葬祭ももっぱら「葬」ばかりで、こんな機会でもなければ華やかなパーティーなんてね!
美術展の開催記念パーティーは大聖堂の隣り、15世紀ごろに巡礼者の養護・病院施設として建てられた世界最古のパラドール(ホテル)「オスタル・デ・ロス・レジェス・カトリコス」国賓などが招かれる広間での晩餐会だ! しかもサンティアゴデコンポステーラの観光局長から改めて出展者一人ずつに出展に対する感謝状が授与された。平和に対する希求をアートを通して遠く日本から紹介いただき、またはるばるこの街にお越しいただき感謝です! という事のようです。確かに!はるばるだったよね! と同じテーブルの出展者たちと頷きあった。というのも、同じテーブルのメンバーは美術展主催のツアーではなく自力でここまで来た顔ぶれだったのだ。道理で一段と個性的で積極的で目立つ面々。(私も?)「上海経由で来た」とか「明日はパリに行く」とか「マネージャーと次はアムステルダムに行く」などここまでたどり着いたルートや次の予定などとてもグローバルで逞しい!「つまり協調性のない奴らのテーブルってことね!」(爆笑)などと一段と話が盛り上がり、人生の良き刺激になったような気がした。
そしてパーティーメニューは当時皇太子だった徳仁天皇陛下がご訪問時にこの会場で召し上がられた同じメニューという華やかさ! 並ぶ銀のカトラリーに緊張! 特筆するのは前菜のロブスターのサラダ。見事に大きなロブスター1尾! 美味しい…これがサラダだなんて…メインのメルルーサが食べきれないほどの迫力! 海の幸の宝庫ガリシア州のごちそうを堪能しました! 本当にごちそうさまでした!
華やかな晩餐会は11時頃まで続いた。パラドールを出ると大聖堂の横に綺麗な半分のお月様がボ〜と広場を照れしていた。

 

 
 
 

朝、少し降っていた霧雨がやんで国際平和美術展のセレモニーが始まるころにはまぶしい太陽が降り注ぎ、見事な青空になっていた。ワークショップは美術館のテラスで行われる予定だったからお天気が気がかりだったのだ。地元の学生などが多く参加して大いににぎわった。(もちろん通訳さんがしっかりついてくださいました)
朝の散歩の際に拾ってきた落ち葉に、水彩絵の具を塗って色紙やはがきに押し当てて落ち葉のスタンプ+手描きを加えて「秋色の一枚の絵」を仕上げよう〜というのが私のワークショップだった。無事に開催されてよかった! ほかには水引の実演や書道家さんが参加者の名前を漢字に当てはめて書くパフォーマンスなど式典をにぎわせた。この様子は地元の新聞やTVのニュース映像になって紹介されたそうだ。
肝心の私の出展作品は「道・CAMINO」終着点のサンティアゴデコンポステーラ大聖堂までの巡礼の道をイメージして描いたもの。エウヘニオ・グラネル財団美術館の館長、トップキュレーターさんらがこの絵のここはあそこね! ここがスタート地点ね! など言い当ててくださり、ぜひ本当に歩いてみてほしいわ…なんて言われちゃいました! 和紙や墨を使って巡礼の道を描いた作品は「日本とここコンポステーラとの融合ね」などと理解してくださって、とても嬉しい気分に。日本から駆け付けた出展者たちと談笑したり、この美術館の館長によるシュールレアリズムの巨匠・グラネル氏の作品の解説を聞いたり、しばし自分の作品とともに美術館での滞在を楽しんだ。
日がかげると急に空気が冷たくなり、夜のレセプションパーティーの前に温かい「Cafe con leche」ミルクコーヒーを飲んで休憩することにした。

 

 
 
 

サンチャゴ・デ・コンポステーラはスペインの西の端っこ、北の果て。日本を極東と呼ぶならここはヨーロッパの極西? キリスト教3大聖地のひとつで巡礼の旅の終着点である。本来は少なくとも100キロ、ピレネー山脈からスペイン北部を横断する「CAMINO de Santiago」はおよそ800キロ大聖堂を目指して歩むのだ。
そんな巡礼者には到底かなわないけど遠くから来た…という事では負けないぞ! 遥かに遠い旅をしてきたのには訳があり、第32回「国際平和美術展」に参加した自分の絵を追いかけて(それにかこつけて)ここまで来たのだ。今回の作品はこの巡礼の道をイメージして描いたもので、その想像の世界から現実の終着点に自分も来れたことにじんわりと感動していた。
朝8時でも外はまだ暗い。でも市場の準備はガタガタと始まっていた。朝食を探して散歩に出よう! そしてまず大聖堂に行ってみよう! すぐ近くのホテルを取ったはずだ。石畳の古い街に黄色い明りが良く似合う。想像していた通りの雰囲気のある街並み。大きなリュックを背負った巡礼者も坂を上ってくる、ゆっくりと空が明るくなってきたころサンチャゴ・デ・コンポステーラ大聖堂を目の当たりにする。とうとう来た! 巡礼路は100メートルも歩いていないかもしれないけど…とうとう来たのだ!

*国際平和美術展の様子やそこでのワークショップの写真をWhat's Newにアップしました。

 

 
 
 

3度目のスペイン旅行は遥かに遠い旅だった。羽田からトルコ・イスタンブールまで13時間。乗り換えに5時間近く待って4時間かけてスペイン・マドリッドへ。そこでもまた5時間…。イミグレーションを通過して、いったんスーツケースはこのマドリッドで受取り、さて次はどこへ。ツアーではなく個人旅行の一人旅…旅慣れたほうだとは思うが、薄暗い到着ロビーで不安に襲われる。空港スタッフに乗り換え便について聞いてみる、外に出てシャトルバスに乗れという。え? ここではないということ? バスはずんずん空港敷地を離れて隣町くらい…いいや3駅分くらい離れていく。そんなこと誰も言ってない、どこにも書いてない! でも時間はたんまりあるので間違っていたら戻ってくればいいや! バスは明るくモダンなスペインのイベリア航空の専用ターミナルに到着した。
さっきまでの不安は消えてお腹がすいてきた。チーズたっぷりのサラダと搾りたてのオレンジジュースを飲みながら、宿題の折り紙で赤とんぼを折る。(帰国直後にあるイベントの仕事で折り紙の赤とんぼが大量に必要なのだ。頼りになるプロフェッショナルな友人にほぼお任せしてあるのだが、無駄に時間があるので赤っぽい色紙を手荷物に忍ばせた)今度の出発ロビーも端っこ、まだ閑散としている。充電用のカウンターで黙々と赤とんぼを折っていると向かいのカウンターで黒人のお兄ちゃんが私の折り紙に拍手をくれた!「グラシャス!」と初のスペイン語であいさつ。5時間はあっという間に過ぎた。
マドリッドから1時間15分、ついに目的のサンチャゴ・デ・コンポステーラに! 羽田を出て約30時間。夜遅く予約した迎えの車で旧市街の小さなホテルに到着した。小さなバルコニーのある白い部屋。いろいろ検索しまくって決めた部屋だ。窓の向かいには小さな教会と市場の屋根が見える。朝目覚めたら、私はどんな街にいるのだろう…。初めての街へのワクワクよりも無事に到着した安堵感でぐっすり眠った。

 

 
 
 

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