■2013年11月の「絵てがみコラム」
 

私だけじゃなく、この秋海外旅行に行った友達は多い。アベノミクス?とやらで少しは景気がいいのかな〜?私は全くそんなことはなく、旅行に行ける時間が出来ちゃっていると言うヤバイ傾向なのだけど。類は類を呼ぶで、旅好きにはお土産話や情報が集まってきたりするものだ。「昨年の2月のイタリア旅行の次が4泊7日のパリじゃあ比較出来ないと思うけど、その割に写真多いね〜」なんて言われたり。「どんな旅行でも楽しむことにかなりどん欲だからね〜長い短いは関係ないかも。」
旅のオーソリティでもなんでもないけど、旅行のアドバイスを求められることも多くなった。イタリアに行ったことが無い人に「どこがお薦め〜?」と聞かれる。何に興味があるかで変わってくるよね。あそこもここもと思うけど、それじゃあ凄く駆け足になっちゃうし、ゆったり滞在型を薦めたいけどそれでは見逃すところが勿体ないし…悩んでいたらイタリア語の先生がしっかりイタリアを知るなら、その目安としてVenezia3週間、Firenze2週間、Roma2ヶ月、Milano1週間、Napoli1週間だと。…なるほど、歴史や芸術の重要性、ボリューム、見どころを考慮したらこういうバランスになるらしい。納得!私も賛成だ。しかしこんな理想の日程を実行できる人は少ないだろう。自分の旅のボリュームの中でこれを参考に振り分けることは可能だ。だから初めての人にはヴェネチア3日フィレンツェ2日ローマ4日…う〜んよくあるツアーになっちゃうかな?(きっとツアーはある意味とても正しいのだ)
そして、その3か所+1日、どこかその近くの小さな田舎町を訪れてみるとイタリアの姿が良く見えてくるだろうと。その中から自分の趣味嗜好、フィーリングの合う町を見つけて今度はじっくりそこを中心に再訪するのがいいだろう。昨年のフィレンツェ滞在は正にそういうことだった気がする。一生に一回…かもしれないけどもしかしたらまた行けるかも…そう思えると旅のボリュームは自分の気持ち次第だよね?

 

 
 
 

中東の国カタールの首都・ドーハと言えばサッカーの「ドーハの悲劇」日本人の多くがそう答えるだろう。1993年日本対イラクのW杯アジア最終予選ロスタイムに同点に追いつかれた事によって、目の前にあったW杯初出場を逃した「残念な思い出の地」だ。ドーハにとってはスタジアムを貸しただけなのに「残念な思い出の地」とはずいぶんな話だけど。
今回パリへの道のりの途中、カタールエアの本拠地ドーハに立ち寄り、行きは4時間、帰りは2時間の乗り継ぎ時間をドーハ空港で過ごすことになった。何で好き好んで?いやいややっぱり時は金なりの逆バージョン、ちょっとお安めが魅力だ。その分でオペラ座のチケットを買って、何か美味しいものを食べよう〜!と。
初の中東の地…空港内だけだけど興味津津。着陸態勢に入りアナウンスは外の気温は27度と告げていた。空港の窓からはヤシの木が見える。ラウンジのトイレの横にはモスクのマークと、チャドルと呼ばれる女性の肌を隠す黒いスカーフのイラストがイスラム教のお祈りスペースを示していた。白いアラビアンナイト?スタイルの紳士が「金」のアクセサリー売り場のウィンドーを熱心に覗いている。それになんだか、みんな金色の水筒を持っている。流行ってるの?機内食のメニューには「この食事はイスラム教の教えに則って調理されています」の文字が。免税店にはラクダグッズがいっぱい。時間潰しに、てんこ盛りのラクダのぬいぐるみと一緒に記念撮影。「ドーハの喜劇!」なんていいながら(女学生のノリ?)初めて降りたった中東の地を私たちは、しばし楽しんだ。
ちなみに、カタール・ドーハは2022年FIFAワールドカップの開催地に決まっているそうだ。

 

 
 
 

折角、芸術の都パリに行ったのだからアートな話をひとつ。
2011年秋に大規模な改修を終えた新生オルセー美術館。もともとオルレアン鉄道のオルセー駅だった建物の個性と19世紀美術の、特に印象派の名画が集結していることで知られる人気の美術館だ。旅の最終日オープンと同時に入館、まだ人もまばらな空間で名画と対面。贅沢〜!改修後のダークなブルーグレーの壁面が空間に奥行きをもたせ、白い壁の時とは全然違う新鮮な印象。天井からの自然光がモネの「日傘の女」やマネの「草上の昼食」に穏やかに射し、屋外の空気感を感じさせる心憎い演出だ。ところどころに置かれたガラスのベンチは、そうだ!日本人アーティスト吉岡徳仁氏の作品。水の塊のような空間を邪魔しない、でも思わず座ってみたくなる素敵なベンチだ。後から知ったがそのベンチの名は「ウォーター・ブロック」まさしく!「草上の昼食」の絵の前では共に草むらか、はたまた湖畔にでも佇んでいるかのような感覚に包まれる。
いつも思うことだけど、日本の美術展は名画ひとつ来日したら大騒ぎで、行列してガラス張りの作品の前を順に通過するのがやっと…グッズ売り場だけが、やけに充実していて少し心寂しくなってしまう。なかなか海外の美術館で絵画鑑賞なんて出来ないことだけど、「作品と接する空間のたたずまい」そのものが、いかに大事かしみじみ痛感させられる。
他にもオルセー美術館にはため息が出るほど有名な作品がいっぱい。ミレーの「落穂拾い」「晩鐘」ルノワール「ムーランドラギャレット」スーラ「サーカス」ゴーギャン「タヒチの女」ゴッホ「オーヴェルの教会」「ローヌ川の星月夜」などなど、美術の本で見たことある作品だらけ。広すぎるルーブル美術館より実はお薦め。

 

 
 
 

今回はノートルダム大聖堂の塔に登って、伝説の怪物ガーゴイルを身近に見たいと思い、開場の10時より少し前に行って並んだ。しかし、オープン時間になって係の人が来て今日はクローズだと言う。理由もわからず何の説明もなく仕方なく列は解散。お天気が悪いわけでもないのに…。先頭に早くから並んだ人たちなんか、寒いのに気の毒に…。もっと早く告知できないものか!なんだか、フランス人の仕事ぶりに腹が立つこと数回。不親切だな〜と思うことも。東京オリンピックの時には世界中からのお客さまを、こんな気持ちにさせちゃあいけないな〜なんて、あらためて、お・も・て・な・し・お・も・て・な・し…と心の中で復唱した。
さて、塔には昇れなかったけど美しいゴシック様式の大聖堂の中に入り、見事なステンドグラスを見上げれば、とても厳かな空気感に包まれる。側廊を進み一番奥の祭室を通りかかった時、ふと、「待ってたのよ」と言う声が聞こえたような気がした。この夏の終わりに、私たちの共通の友人が急死した。とてもエレガントなお姉さんでフィレンツェやパリが似会う素敵な人だった。きっと私たちがパリに行くと言ったら、オシャレなスポットをあれこれ伝授してくれただろう。彼女の死はあまりに突然で、いまだに信じ難くパリの街を歩きながらも一緒に来れるような気がしていたのにね…と何度もそんなことを話して彼女の面影を偲んだ。祭室のマリア像の前で、あ、しばらくここにいよう…と、小さなキャンドルをともして献灯することにした。こんな小さな祈りしかできないけれど、とても私たちらしい時間を持てたような気がする。
今年はノートルダム大聖堂創建850年だと言う。凄い歴史だね。小さな小さな祈りが日々延々繰り返されているんだろうな〜。

 

 
 
 

世界中観光地はどこも、スリや置き引き、貴重品には気をつけろ!と注意事項は山盛り。地下鉄のドアのそばには立たない。鞄は斜めがけしてファスナーは手で押さえる。人ごみの中でガイドブックや地図は見ない。高そうなものは身に付けない。撮影に夢中になって油断しない。署名運動のようなフリをして近づく悪質スリグループに要注意!などなど。幸い私たちは遭遇することはなかったが、サンジェルマン・デ・プレのオープンカフェでサラダランチを食べている時に、大捕りモノを目撃した。
目の前に駆けて来た15〜6歳の少年3人、一人は角を走り抜けそれを一人の中年男性が追い、もう2人は本当に目の前で、もう一人のおじさんにググっと首根っこを掴まれて、膝でねじ伏すように押し倒された。一言二言怒鳴っている!吹き出しを付けるなら「無駄な抵抗はするな!」もしかしてスリの犯人と被害者かしら?それにしても、おじさん強い!呆気にとられて見ていると、オシャレとは言い難いモッサリとしたスタイルのおじさんの、後ろポケットからおもむろに取り出されたのは…「手錠!」「うわ〜!刑事さんだ!」モッサリしたおじさんは、その瞬間にダイハードのブルースウィルスと化した。(後頭部が似ていた、フランス人俳優が思い浮かばないところが情けない。)「初めて、手錠掛けられるところなんか見ちゃった〜」「凄い!刑事ドラマみたいだね〜」目の前の2人の少年は、まるでライオンに咥えられたウサギの様に、ピクリとも動かず横たわっていた。スリか万引きの現行犯か常習犯として刑事さんに追われていたのかもしれない。
土曜の昼下がり観光客で賑わうパリの街角、サンジェルマン・デ・プレの治安をブルースウィルスが(違うってば!)守ってくれてるんだ〜と妙に安心して、この一件を私たちは「サンジェルマン・デ・プレの事件簿」と名付けた。

 

 
 
 

パリ東駅から郊外列車で1時間20分ほどPROVINS(プロヴァン)への小旅行。
プロヴァンは世界遺産の中世の面影を残す小さな町。有名な南仏のプロヴァンスとは全く別の街です。早起きして出発!でも朝から体調がすぐれない。やっぱり風邪をひいたのかもしれない。斜めがけのバックの重さで肩こり頭痛にも悩まされる。友人に心配をかけながらも、雨上がりの気持ちの良い古都をゆっくり歩く。観光の中心カザール塔に昇り、町を見下ろすと可愛いマッチ箱のような家々が紅葉した木々の間に建ち並び、絵本のような光景が広がる。6月の中世の祭りの時には町中に中世の衣装を着た人々で賑わうらしいがシーズンオフの始まりと言う感じで訪れる人も少なく、町は静かだ。風でカサカサと落葉が舞ってとても美しい。絵になる景色だらけだけど大事をとって早目にスケッチブックを閉じてパリにもどることにした。
中世の町はどこも駅から少し離れている。駅を中心に広がる近代都市の作りとは違うのだ。カフェで駅までのタクシーを頼んだら、「タクシーは、今、無い」「…!」日本では考えられないような事があるのだ。さ〜て地図を頼りに、通りがかりの人に聞きながら30分を目安に歩きだす。不安だけど、体調は悪いけど、結構こういうハプニングは嫌いじゃない。駅までの道なんか誰でも知っているだろうと思ったらあまり人も歩いていない、年配の人には細かい地図が見えない、そして駅と言う単語「ステーション」が通じないのだ。イタリア語の「Stazione」もダメだ。フランス語で「駅」って何て言うんだっけ?え〜っと、確かガイドブックの端に「la gare 」ガレじゃなくって「ラ・ガール」…って。ドーハ空港でのお勉強が役に立った!その一つの単語で道は開けた。目安よりはるかに時間はかかったけど、無事駅に辿り着いた。迷い道は少し楽しい。少し人を逞しくする。
ホテルに戻って、私は休むことにした。友人は勇気を振り絞ってひとりで夜のルーブル美術館に出掛けて行った。

 

 
 
 

今回2人にとっての最大のイベントが、パレ・ガルニエ(オペラ座)での初オペラ鑑賞。
有名なシャガールの天井画「夢の花束」も見たいし、もちろん「オペラ座の怪人」のあのオペラ座、そのものへの興味も。どうせならオペラを観ちゃおう!とインターネットでチケットを入手。敷居は高いけど、バルコニーの奥の手頃な席を。イタリア語の先生に演目「Cosi fan tutte/ 女はみんなこんなもの」のDVDを借りて予習、でないと超初心者でいきなりパレ・ガルニエデビューは厳し過ぎる。ほんの少しおめかしをして、ドキドキそわそわ足を踏み入れたその空間は、あまりにも圧倒的な別世界だった。本当に宮殿!これぞゴージャス!Live好きで全国あちこちのホールは見学済みだが、凄すぎる…。
そして肝心のオペラは、聞き取れるイタリア語の単語を拾い集めても、あまりにもわずか…。劇場上部に写しだされる字幕はもちろんフランス語…。温かいBOX席での睡魔との闘いも含めて、貴重な体験だった。同じBOX席に10歳くらいの男の子が一人。こんな子供に3時間は無理じゃね?と思ったら、拍手も笑いも超ノリノリ!大好きなんだ〜。びっくり!アンコールでもニコニコで椅子の踏み台に上ってBravo Brava Bravi Bravissimo!!!と大きな声で完璧だ。終演後保護者らしき人が迎えに来ていた。親はもっとよい席で見ていたのか、はたまたオペラ好きの子供の為に、自分たちはもっとリーズナブルな席で見ていたのか…。文化の違いや芸術に対する土壌の違いもある。でもどんな世界でも、とびきりの興味を持つことの強さ、体験することの素晴らしさにちょっと感動。
オペラ座の大理石の大階段を下りて、外に出たら、まるで夢から覚めたシンデレラ。(誰がシンデレラなんや?!という突っ込みは受け付けません)カボチャの馬車は無く、タクシーの列に並ぶ。その間に庶民の私は少し風邪をひいたようだ。

 

 
 
 

カタール・ドーハ国際空港で乗り継いで、直行便なら12時間ほどのところを22時間かけて、Parisシャルルドゴール国際空港に到着した。
友人と2人での4泊7日パリ自由旅行。私は90年代インテリアや雑貨の展示会視察などで何度も訪れたパリだが13年ぶり。パリは初めてという友人と「優雅じゃないけど、ちょっとお洒落な女学生風?の旅」(予算控えめで、でもちょっとこだわりを持った気持ちは若々しい旅…という意味)をテーマに希望を出し合った。お洒落番長のリクエストはブランドショップを2〜3店、オルセー美術館と凱旋門、もちろんエッフェル塔は見たいし〜ああ〜〜ん全部!私の希望は1日パリを抜け出し田舎町への小旅行。折角のフリーな旅、気ままな町歩きを楽しもうとガイドブックやファッション雑誌MAPを頭に入れる。ドーハでの乗り継ぎ時間はフランス語のお勉強。(だから〜女学生風?の旅なんだってば!)
季節ならではの美味しいものも!特に私の期待は「タルトタタン」。リンゴを甘く煮て丸い型に敷き詰め、タルト生地をかぶせて焼いてお皿の上にひっくり返す。100年以上歴史のあるフランスのタタン姉妹の失敗から生まれた美味しいリンゴのタルト。甘酸っぱいリンゴの季節に本場フランスで食べたいじゃないか!到着した日、夕暮れ時のセーヌ右岸からエッフェル塔を臨んで、カフェでさっそく頂いちゃおう〜。カフェクレームとタルトタタン、うふふ!パリの味!ボンジュール、Paris!
形から入る?私たちにはピッタリのスタートである。

 

 
 
 

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